花見のシーズン、同僚と吉祥寺にいた。混雑したホームを歩いていたら、
足元で「ぷにっ」とした。
そのとき、靴底にやわらかい感触があった。
「……ん?」
見下ろすと、白いかけらがべったりと靴につぶれていた。
マシュマロだった。
誰かが落としたらしい小さなマシュマロ。
ふわふわの姿は断片的に残っていて、靴底から横に顔をだし、
踏まれた衝撃で中のベタベタ部分はよく張り付いている。
気になる。
めちゃくちゃ気になる。
私は軽くしゃがんで、
えいっと指で取ろうとした。
――その瞬間。
マシュマロは指にくっつき、慌てて振りほどく手の反動で、
ポーンッ!
と空高く跳ね上がった。
白く軌道を描いて飛ぶマシュマロは、
まるでスローモーションみたいに、
ゆっくり、ゆっくりと落下地点へ向かっていく。
その先は、
つるつるの男性の頭上。
え、ちょっと待って。
なんで?
どうしてそこ?
今だけは重力のいたずらが悪魔に見える。
よりによって、
ベタベタのマシュマロが最もくっつきやすい場所へ向かっていくなんて。
私の心臓は、
ホームの喧騒以上の音でバクバク鳴り始めた。
――もし、あの頭にペタっと貼り付いたら。
――どうやって謝ろう?
――まず何て言うの?
――「すみません、私のマシュマロが…」?
――いやいやいや、絶対変でしょ!!
気にしい脳は暴走し、
謝罪シミュレーションと最悪の未来予想が頭を駆けめぐる。
気づけば、胸の奥から勝手に声が飛び出た。
「わーっ!!」
横を歩いていた同僚が驚いてこちらを見る。
「え?どうしたの?何!?」
説明なんてできない。
「マシュマロが頭に向かって飛んで行った」なんて言えるわけがない。
私は祈るように、白い軌道の先を見つめた。
そして――
マシュマロは、男性の頭をかすめ、
その後ろの地面に「ぽとっ」と無事に落ちた。
私は一気に息を吐いた。
胸に手を当てて、ひとりで静かに安堵する。
危なかった……。
本当に危なかった……。
混んでいる割に、他の人にも当たらず、ことなきを得た。
ただの落とし物ひとつで、
心の中がここまでドラマになるなんて。
でも、そんな自分がちょっと好きだ。
日常のどんな些細なことも、
なぜかドラマティックにしてしまう気にしい脳。
今日もまた、小さな自分劇場を生きている。
気にしいな人、こういう経験ない?駅でも、スーパーでも、小さな出来事がいちいちドラマになる。損な気もするけど、なんか飽きない人生だなとも思う。
